はじめに
「最近、同じことを何度も聞くな」と感じたことはありませんか。 ご家族の変化に気づいても、「年のせいかな」と見過ごしてしまう方は少なくありません。 そのサインが、軽度認知障害(MCI:認知症の手前の段階)の始まりである場合もあります。 MCIは、早めに気づくことでできることが増える段階です。 一緒に、穏やかに確認していきましょう。
この記事でわかること
- 加齢による「もの忘れ」とMCIのもの忘れの違い
- ご家族が日常で気づきやすい変化のポイント
- 受診の目安と、ご家庭でできる工夫
軽度認知障害(MCI)とは
MCIは、健常な状態と認知症の中間にある状態です。 65歳以上の約15.5%、およそ558万人にみられるとされています(厚生労働省, 2024)。
不安を感じる方も多いのですが、MCIになれば必ず認知症になるわけではありません。 年間5〜15%が認知症に移行する一方、16〜41%の方は正常な状態に回復するとも報告されています(認知症疾患診療ガイドライン2017)。 だからこそ、早めに気づくことが大切です。
もの忘れの「違い」を知っておきましょう
加齢によるもの忘れとMCIのもの忘れは、性質が異なります。
加齢によるもの忘れ
- 昨日の夕食の「おかず」が思い出せない
- ヒントがあれば思い出せる
- 「忘れた」という自覚がある
MCIで気になるもの忘れ
- 昨日の夕食を「食べたこと自体」を覚えていない
- ヒントがあっても思い出せない
- 本人はあまり気にしていない(ご家族が先に気づく)
- 同じ話を1日に何度も繰り返す
体験の「一部」を忘れるのが老化、体験「そのもの」を忘れるのがMCIで気になるサインです。
ご家族が気づきやすい変化
MCIの初期は、複雑な日常動作(買い物・金銭管理・料理など)から崩れやすいとされています。
家事・料理 複数のおかずを同時に作れない、火の消し忘れが増えた、レシピを見ても手順がわからない。
お金・買い物 同じものを二重に買う、お釣りの計算が遅くなる、公共料金の払い忘れ。
趣味・外出 好きだった趣味への関心がなくなる、慣れた道で迷う、約束を忘れる。
会話 言葉が出にくく「あれ」「それ」が増える、話がかみ合わない。
気分・性格 意欲や関心の低下(アパシー:やる気が出ない状態)、些細なことで怒りやすい、繰り返し心配する。
こうした変化は「わがままになった」のではなく、脳の変化によるものである場合があります。 ご本人を責めず、温かく見守ることが大切です。
治療で改善が期待できる場合も
もの忘れの背景に、治療できる病気が隠れていることもあります。
- うつ病(老年期):意欲低下が目立つ
- 甲状腺機能低下症:ホルモン補充で改善が期待されます
- ビタミンB12欠乏:補充で改善が期待されます
- 正常圧水頭症(脳脊髄液がたまる病気):手術で改善する場合があります
- 慢性硬膜下血腫(頭の中で血がたまる病気):外科的治療で改善可能な場合があります
「治るもの忘れ」があることを覚えておいてください(日本神経学会, 2017)。
こんなときは早めに受診を
次のような変化があれば、早めの受診をご検討ください。
- 数週間〜数ヵ月で急に進むもの忘れ:速やかな評価が必要です
- 歩行の乱れ+尿もれ+もの忘れ:正常圧水頭症の可能性があります
- 頭を打った後のもの忘れ:慢性硬膜下血腫を疑います。血液をさらさらにする薬を飲んでいる方は特に注意が必要です
- 実際にいない人や虫が見える(幻視):レビー小体型認知症の可能性があります
- もの忘れより「人が変わった」と感じる:50〜60代では前頭側頭型認知症が疑われる場合があります
ご家庭でできること

不安を感じたときこそ、今日からできることに目を向けてみましょう。
体を動かす習慣 週3回以上のウォーキングや水中歩行などが勧められています。
聞こえの確認 難聴は、認知症につながるリスク因子の中で影響が大きいと報告されています(Lancet委員会, 2024)。聞こえにくさを感じたら、耳鼻科での聴力検査と補聴器の検討が勧められます。
バランスのよい食事 特定の食事で認知症を防げると断言はできませんが、野菜・魚・大豆製品を中心とした食事が勧められています。塩分や糖分のとりすぎにも注意しましょう。
社会とのつながり 体操教室や趣味の会など、グループ活動は体・頭・社会参加を同時に支えます。社会的な孤立は認知症リスクを高めるとも報告されています(Lancet委員会, 2024)。
まとめ
MCIのサインは、もの忘れだけではありません。 家事・金銭管理・意欲の低下など、ご家族だからこそ気づける変化があります。 「おかしいな」と感じたら、早めの相談が大切な一歩です。
当院でのご相談について
当院では、もの忘れが気になる方に、丁寧な問診と必要な検査(認知機能テスト・頭部MRI・血液検査など)を通じて、お一人おひとりに合ったご提案をしています。 「まだ受診するほどでもないかも」と感じる段階でも、気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療については医師の診察をお受けください。