はじめに
「生理のたびに頭が痛くなる」。 「妊娠中はラクだったのに、産後また始まった」。 「更年期に入って頭痛が重くなった気がする」。 こうしたお声を、診察室でよくお伺いします。 女性の片頭痛には、ホルモンの動きが深く関わっています。 今日はその仕組みと付き合い方を一緒に整理していきましょう。
この記事でわかること
- 片頭痛が女性に多い理由とホルモンの関係
- 月経・妊娠・産後・更年期での頭痛の変化
- 受診の目安と、ご家庭でできる工夫
片頭痛が女性に多いのはなぜ?
日本の成人の片頭痛有病率は約8.4%と報告されています(Sakai & Igarashi, 1997)。 うち女性は男性のおよそ3倍多く、特に20〜40代に多いとされています。
理由のひとつが、女性ホルモン「エストロゲン」の変動です。 エストロゲンが急に下がると、片頭痛が起こりやすくなると報告されています(頭痛の診療ガイドライン2021)。 月経・妊娠・出産・更年期でホルモンは大きく動き、頭痛のパターンも変わりやすくなります。
月経関連片頭痛
月経の前後に集中して起こる片頭痛を「月経関連片頭痛」と呼びます。 国際頭痛分類(ICHD-3)では、月経開始の2日前から3日目までに発作が出るものを指します。 3回の月経のうち2回以上で起こる場合に当てはまります。
特徴は、ふだんの片頭痛より痛みが強く、長引きやすい点です。 吐き気を伴いやすく、薬が効きにくいと感じる方も少なくありません。 月経直前のエストロゲン低下が関わると考えられています。
頭痛ダイアリー(日付・痛みの強さ・月経周期のメモ)をつけると、ご自分のパターンが見えてきます。
妊娠中の頭痛
妊娠するとエストロゲンは高い状態が続きます。 そのため妊娠中期以降は片頭痛が軽くなる方が多いと報告されています(頭痛の診療ガイドライン2021)。
一方で注意したい頭痛もあります。 妊娠中に新しく始まった激しい頭痛は、二次性頭痛のサインのことがあります。 妊娠高血圧症候群や脳静脈の血栓など、母体に関わるご病気の可能性も考えます。 妊娠中の頭痛薬は自己判断せず、産婦人科や内科の医師にご相談ください。 市販薬の中には、妊娠中は避けたほうがよいお薬もあります。
産後・授乳期の頭痛
出産後はエストロゲンが一気に下がり、睡眠不足や授乳の負担も重なります。 そのため産後数週間以内に片頭痛が再発しやすいと報告されています。
ここでも気をつけたいのが、いつもと違う頭痛です。 産後の激しい頭痛・けいれん・意識のもうろうは、子癇(しかん)や脳静脈洞血栓症などの可能性があります。 すぐに医療機関へご連絡ください。 授乳中のお薬も、自己判断せず医師・薬剤師にご相談ください。
更年期と頭痛
40代後半から50代の周閉経期は、エストロゲンが大きく揺れる時期です。 この時期に片頭痛が悪化する方は少なくないとされています。 ほてり・睡眠の乱れ・気分の変化なども頭痛に影響します。
閉経して1〜2年を過ぎ、ホルモンが落ち着くと、片頭痛が軽くなる方も多いと報告されています(頭痛の診療ガイドライン2021)。 今のつらさを、ひとりで我慢しすぎないでください。
ピル(経口避妊薬)やホルモン補充療法との関係
経口避妊薬(OC、低用量ピル)やホルモン補充療法(HRT)は、月経痛・更年期症状の治療に広く使われています。 一方で、片頭痛との関係には注意が必要な場合があります。
特に「前兆のある片頭痛」の方では、エストロゲンを含むOCで脳卒中リスクが高まると報告されています(WHO Medical Eligibility Criteria, 2015)。 前兆とは、頭痛の前にギザギザの光や視野の欠けが出るタイプを指します。 HRTも、種類や投与方法によって頭痛への影響が変わるとされています。
「使ってはいけない」と決まっているわけではありません。 頭痛の型・年齢・他のご病気を踏まえ、産婦人科や頭痛を診る医師と一緒に検討します。 すでに服用中の方は、自己判断で中止せず、まずご相談ください。
ご家庭でできる工夫
- 頭痛ダイアリーで月経周期と頭痛の関係を見える化する
- 睡眠時間を一定に保つ(休日も大きくずらさない)
- 食事を抜かない、こまめに水分を取る
- カフェイン・アルコールの取りすぎに気をつける
- 月経前後はスケジュールに余裕を持たせる
- 痛み始めの早い段階で、横になって休む
ご自分の体のリズムを知ることが、上手に付き合う第一歩です。
こんなときは受診を
次のような頭痛は、ためらわず医療機関へご相談ください。
- 突然始まる、これまでで一番ひどいと感じる頭痛
- 手足のまひ・しびれ、ろれつが回らないなどを伴う頭痛
- 発熱と首のこわばりを伴う頭痛
- 妊娠中・産後に新しく始まった、強い頭痛
- 50歳を過ぎて初めて経験する頭痛
- だんだん強くなる、頻度が増えていく頭痛
これらは二次性頭痛のサインかもしれません。 特に妊娠中・産後の激しい頭痛は、早めの受診が安心です。
当院でのサポート
当院では「頭痛・物忘れ相談外来」として、脳神経外科の視点から頭痛の問診と神経学的診察を行っています。 頭痛の種類や検査については頭痛の診療についてもご覧ください。 ホルモンの変化と頭痛のつながりを一緒に整理し、必要に応じて頭部MRI検査(強い磁石を使った画像検査)もご相談いただけます。 婦人科的な治療が必要なときは、産婦人科と連携します。
まとめ
女性の片頭痛は、ライフステージごとに表情を変えます。 ご自分のパターンを知ることで、対処の幅は広がります。 頭痛で生活がつらいと感じたら、ひとりで抱え込まずご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療については医師の診察をお受けください。