はじめに
ある日突然、家族の言葉が急にもつれる。 笑顔の片側だけが下がる。 そんなとき、私たちは何を疑い、どう動けばよいのでしょうか。 脳卒中は時間との戦いです。 早く気づき、早く救急車を呼ぶことが、その後の回復を大きく左右します。 今日は、ご家族とご本人を守るための合言葉「FAST」をご紹介します。
この記事でわかること
- 脳卒中の3つのタイプとそれぞれの特徴
- 命を守る合言葉「FAST」の意味と使い方
- 「様子を見ない」ことがなぜ大切なのか
脳卒中とは
脳卒中は、脳の血管に起こるトラブルの総称です。 大きく次の3つに分けられます。
- 脳梗塞(脳の血管がつまる病気): 全体のおよそ4分の3を占める
- 脳出血(脳の中の血管が破れる病気)
- くも膜下出血(脳の表面の血管が破れる病気)
日本では年間およそ29万人が新たに発症すると報告されています。 死因の上位を占める一方で、近年は治療の進歩により、早期に対応できれば後遺症を軽くできる可能性が高まっています。
命を守る合言葉「FAST」
脳卒中のサインを覚える世界共通の合言葉が FAST(ファスト)です。 それぞれのアルファベットに意味があります。
F — Face(顔のゆがみ)
「ニッ」と笑ってもらってください。 顔の片側だけが下がり、左右が非対称になっていませんか。 うまく笑えない、口角の片側が上がらない、これが最初のサインです。
A — Arm(腕の力が入らない)
両腕を前にまっすぐ上げ、手のひらを上にして10秒ほどキープしてもらいます。 片方の腕がスーッと下がってくる場合、片麻痺(半身の力が抜ける状態)が疑われます。
S — Speech(言葉の異常)
短い文を復唱してもらいます。 「今日は良いお天気ですね」など、いつもの言葉で構いません。 ろれつが回らない、言葉が出ない、受け答えがかみ合わないときは要注意です。
T — Time(発症時刻と119番)
ひとつでも当てはまったら、迷わず 119番です。 そして、**症状が始まった時刻(最終健常確認時刻)**をメモしてください。 この時刻が、その後の治療方針を決める大切な情報になります。
FAST以外の警告サイン
FAST以外にも、注意したい突然の症状があります。
- これまでに経験のない突然の激しい頭痛(くも膜下出血の疑い)
- 体の片側のしびれ
- ぐるぐる回るような強いめまいや、まっすぐ歩けないふらつき
- 片方の眼が急に見えなくなる、視野が欠ける
- ものが二重に見える
これらが突然・急に起こるのが脳卒中の特徴です。 数分でおさまっても安心せず、必ず医療機関にご相談ください。
「軽い発作」を見逃さない 〜TIAとは〜
症状が数分〜数十分で消えてしまうことがあります。 これを TIA(短時間で回復する軽い脳の血流不足)と呼びます。 「治ったから大丈夫」と思いがちですが、これは本格的な脳梗塞の前触れかもしれません。
国内外の研究では、TIAのあと90日以内におよそ10〜15%の方が脳梗塞を発症すると報告されています。 特に最初の48時間がもっとも危険とされています(日本脳卒中学会, 2021)。 症状が消えても、その日のうちに医療機関にご相談ください。
なぜ「様子を見る」ではいけないのか
脳の細胞は、血流が止まると1分ごとに大量に失われると言われています。 治療には厳しい時間制限があります。
- t-PA(血のかたまりを溶かす点滴薬): 発症から 4.5時間以内
- 血管内治療(カテーテルで血のかたまりを取り除く治療): 原則 6時間以内(画像所見により延長される場合あり)
「朝起きたら症状があった」というときは、前夜に元気だった最後の時刻が発症時刻の目安になります。 1分でも早い受診が、回復の幅を広げます。
救急要請の判断と発症時の対応
迷ったら 119番で構いません。 通信指令員が症状を聞き取り、適切な医療機関へ搬送してくれます。
自家用車での搬送は避けてください。 途中で意識が悪くなることがあり、安全に運べないからです。 北海道・小樽市内でも、119番要請から脳卒中に対応できる医療機関への搬送体制が整えられています。
救急車を待つ間は、次のことを心がけてください。
- 横向きに寝かせ、嘔吐に備える
- 衣服のえりをゆるめ、呼吸を楽にする
- 無理に水や薬を飲ませない(誤嚥の危険があります)
- 発症時刻と症状の経過をメモに残す
- お薬手帳・健康保険証・ご家族の連絡先をまとめておく
危険因子を整える日々のケア
脳卒中の多くは、生活習慣病が背景にあります。 高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動(脈の乱れる不整脈)・喫煙・過度の飲酒は代表的な危険因子です。 特に高血圧は最大の要因とされ、適切な管理で発症リスクを下げられると報告されています。
定期的な血圧測定、内服の継続、禁煙、節酒、適度な運動。 こうした日々の積み重ねが、何よりの予防につながります。
当院でのサポートについて
当院では、脳神経外科の視点から、生活習慣病の管理や脳卒中の危険因子の評価をご相談いただけます。 発症後に残る手足の麻痺については手足の麻痺について、症状のない段階での検査は脳ドックのご案内をご覧ください。 「最近、血圧が気になる」「家族に脳卒中の人がいて心配」といったご相談もお気軽にどうぞ。 ただし、急な症状が出たときは、まず119番を最優先にお願いします。
まとめ
脳卒中のサインに気づいたら、ためらわず救急車を呼ぶことが命を守ります。 合言葉は FAST。 ご家族の中で共有しておくと、いざというときの行動が変わります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療については医師の診察をお受けください。