はじめに
「梅雨の時期は、決まって頭が重くなる」。 そんなお声を、診察室でよくうかがいます。 今回は、湿度と気圧が頭痛に関わるしくみを一緒に整理します。 ご家庭でできる工夫もまとめました。
この記事でわかること
- 気圧・湿度の変化が頭痛に関わるとされる理由
- 北海道の「蝦夷梅雨(えぞつゆ)」と湿度上昇期の注意点
- ご家庭でできる予防と、受診を考えたい目安
「気象病」「天気痛」とはどのような状態か
「気象病」「天気痛」はよく耳にする通称です。 医学的に確立した正式な病名ではありません。 天気の変化に伴って頭痛・めまい・倦怠感などが起こる状態をさします。
天気の変化で頭痛などの不調を感じる方は、国内に多くいらっしゃると推計されています。 特に女性に多いと報告されています。 頭痛のなかでも、片頭痛をお持ちの方が影響を受けやすいとされます。
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)でも、気候の変化は片頭痛の誘因の一つに挙げられています。 国内の頭痛診療ガイドライン2021でも、気圧や天候の変動は片頭痛を起こしやすくする要因と位置づけられています。
なぜ梅雨時に頭痛が増えるのか
しくみのすべては解明されていません。 現時点では、いくつかの仮説が報告されています。
内耳のセンサーと自律神経
有力とされるのが、内耳(耳の奥にある平衡感覚の器官)の関与です。 内耳には気圧の変化を感じ取るセンサーがあると報告されています。 気圧低下の情報が脳へ伝わると、自律神経のバランスが乱れやすくなります。 自律神経は、血管や心拍を自動で調整する神経です。
このバランスが乱れると、血管の拡張や三叉神経(顔の感覚を伝える神経)の刺激につながります。 これが片頭痛の引き金になると考えられています。
湿度上昇のもう一つの負担
梅雨時は気圧の低下に加えて、湿度も上がります。 湿度が高いと、汗が蒸発しにくく体温調整が難しくなります。 結果として自律神経により大きな負担がかかります。 寝苦しさや食欲低下も、頭痛を悪化させる一因です。
蝦夷梅雨 〜北海道にも湿度の高い時期はあります〜
北海道には、本州のような明瞭な梅雨はないとされています。 ただ、6月中旬から下旬にぐずついた天気が続く時期があります。 これを「蝦夷梅雨」と呼ぶことがあります。
小樽は海に面し、霧(がす)の出やすい土地です。 湿度が高くなる日も、6月には少なくありません。 本州の梅雨ほど長くはないものの、湿度上昇期に不調を訴える方は確かにおられます。 「北海道だから大丈夫」と無理をなさらず、体調と相談してお過ごしください。
ご家庭でできる工夫
気圧や湿度そのものを変えることはできません。 しかし、備えと生活習慣でつらさを和らげる工夫はあります。
1. 天気予報・気圧予測アプリの活用
気圧の変化を予測するスマートフォンのアプリもあります。 「明日は痛みが出やすい日」とわかれば心の準備ができます。 予定の調整や薬の準備にも役立ちます。
2. 規則正しい睡眠と食事
寝不足も寝すぎも、片頭痛の誘因です。 食事を抜かない、こまめに水分をとる。 こうした基本だけでも体調は変わってきます。
3. 耳のまわりをやさしくほぐす
耳を上下に軽く引っ張る、蒸しタオルで温めるなどが知られています。 内耳の血流を促す目的で行われる方法です。 効果が確立した方法ではありませんが、副作用の少ない工夫といえます。
4. ぬるめのお風呂と適度な運動
38〜40度のお湯に10〜15分つかると、自律神経が整いやすくなります。 ウォーキングなど軽い運動も、片頭痛の予防に役立つとされています(頭痛診療ガイドライン2021)。 雨で外に出にくい日は、家の中での足踏みでもかまいません。
5. 頭痛ダイアリーをつける
日付・天気・痛みの強さ・対処をメモする習慣をおすすめします。 ご自分の「弱い天気パターン」が見えてきます。 受診時の貴重な手がかりにもなります。
薬の使い方は医師にご相談を
市販の鎮痛薬で乗り切る方も多いと思います。 ただ、月10日以上の使用が続くと「薬剤の使用過多による頭痛」のリスクが高まります(頭痛診療ガイドライン2021)。
片頭痛と診断された方には、トリプタン製剤(片頭痛専用の急性期薬)という選択肢もあります。 頭痛の回数が多い方には、予防薬の検討対象になる場合があります。 五苓散(ごれいさん)など、天気痛に用いられる漢方薬が処方されることもあります。 ただし効果には個人差があります。 自己判断ではなく、医師にご相談のうえで使い方を決めることが大切です。
こんなときは早めに受診を
天気で出る頭痛の多くは一次性頭痛(明らかな病気が背景にないタイプ)とされます。 ただ、次のような場合は早めに医療機関へご相談ください。
- 突然始まり、これまでで一番ひどいと感じる頭痛
- 手足の麻痺、しびれ、ろれつが回らないなどを伴う
- 発熱と首のこわばりを伴う
- 50歳を過ぎて初めて経験する頭痛
- 頭をぶつけた後に出てきた頭痛
- だんだん強くなる、頻度が増えていく頭痛
- 月10日以上の頭痛、市販薬で効きにくい、生活に支障が出る
これらは「二次性頭痛」や、治療の見直しが必要なサインの可能性があります。
当院でのサポート
当院では「頭痛・物忘れ相談外来」として、脳神経外科の視点から問診と神経学的診察を行っています。 頭痛の種類や検査については頭痛の診療についてもご覧ください。 必要に応じて頭部MRI検査(強い磁石を使った画像検査)もご相談いただけます。 頭痛ダイアリーをお持ちいただくと、診察がスムーズです。
まとめ
湿度と気圧の変化は、頭痛と関わりがあると報告されています。 予測と備え、規則正しい生活が、付き合い方の基本です。 梅雨のたびにつらい思いをされている方は、ひとりで抱え込まずご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療については医師の診察をお受けください。